スーパーマーケットの今後に関し伺うのに先立ち、現状を簡単に俯瞰していただけますか。

スーパーマーケット業界の変遷と現状
  • ・『熈代勝覧(きだいしょうらん)』という、江戸の繁栄を細かく描写した絵のコピーが、東京メトロ「三越前」駅地下コンコース壁面に掛けられています。江戸時代の町人文化を克明に描いた貴重な絵巻物です。三井呉服店、後の三越も描かれており、商店が並んだ商店街のようなイメージがあるのですが、実は全て問屋です。江戸時代は、モノはお客様がお店に買いに行くのではなく、問屋で仕入れた商人がお客様のところまで売りに来るものだったのです。
  • ・店舗に行くという買物行動は、110年か120年ぐらいの歴史しかないのです。現在のような小売業形態が形づくられ始めてからも60年程度なのです。「買物行動」は、将来的にも変わるものと考えないといけない。
  • ・戦後、日本の小売業も大きく変わってきました。
  • ・「スーパー」と呼ばれる革新的なチェーンが誕生したのが1950年代。その「スーパー」が「ビッグストア」へ急成長し、70年代には、ダイエーが三越を売り上げで追い越し小売業の中でトップの座につきました。80年代にはセブンイレブンが開業から10年間で2000店舗に拡大するなど、この時期は、総売場面積・売上高・出店速度などを伸ばす戦いが展開されたのです。
  • ・90年代に入ると国内市場の成熟化は進み、収益性・コスト削減・システムの質の追及がなされました。利益を伸ばす競争になったのです。また、利益追求のウェートも2000年代には客数増・便利さの質・PB開発に移ってきました。この時期から電子商取引が普及し始め、1兆円超のメガサイトも生まれました。
  • ・そして、2010年代に入り、市場は縮減し始めました。生活者の価値観が変化してきて、モノ離れが始まったのです。今の戦いは、どのようにして消費を喚起していくか、需要創造の戦いに取組んでおります。
直面する顧客変化とそれに伴う業態変化、そして競合激化
  • ・モノ不足の時代に近代化を推進して来た小売業も、モノ余りの時代を経験しました。ここでは、消費の多様化を促しました。更に生活に習熟し、自分の生活を追及し始めた生活者は、モノだけでは満足しなくなり、モノ離れの時代を迎えております。
  • ・この、消費傾向の変化や顧客ニーズの変化は、専門性を追求したフォーマット(注:事業形態、ビジネスフレーム)を創出し、スーパーマーケットのポジションを変化させております。また、オーバーストア状況の中での出店競争も激化しています。

では、これらの現状も念頭に、スーパーマーケットの今後の戦略に大きな影響を与えると考えられる環境要因に関しお話をいただけますか。
変化要因は、幅広い内容が想定されますので、戦略決定上の最大要因である消費動向への影響、そして、大きくは小売業態全体への影響という観点を中心に包括的にお話しいただければと思います。

短期的に大きな影響を及ぼすと思われる要因は、消費税増税とアベノミクス
  • ・事業活動に影響を与える要因は、①お客さまの変化、人口減少などの構造変化と価値観の変化があります。そして、②法令の新設・改廃や政策の方向性、③ITの進化、特に情報インフラの変化があります。
  • ・わかりやすくするために、便宜的に短期・中期・長期に区切ってお話ししていきたいと思います。
  • ・短期的に見た小売業への最大の影響要因は、消費税増税でしょう。
  • ・17年ぶりの消費税増税は、生活者から見れば値上げであり、消費に与える影響は大きく、死活問題にもつながる可能性を持つ要因です。幸いスーパーマーケットへの影響は、現在のところ少なくほっとしています。
  • ・また、消費増税を含むアベノミクスは財政健全化・安定化とデフレ脱却を目指し実施されるわけですが、小売業は、この20年デフレ下で商売を行ってきており、インフレ経験のある層は現場の中核にはいません。
  • ・どう転ぶにせよ、20年以上経験したことのない、異次元の環境要因といえるでしょう
中期的には、ITを中心とした様々な技術分野のより一層の進展
  • ・中期的には、ITの進展が大きな要因として挙げられると思います。
  • ・小売業の近代化は、レジスターの導入から始まりました。情報技術の進展は、店舗オペレーションを変革するでしょう。さらには購買データを中心としたビッグデータの戦略的活用等、今後の顧客・店舗戦略等を組み立てるうえで重要な役割を果たすと思われます。
  • ・インターネットの利用も、20年の間に「情報収集」「情報発信」、そして「情報共有」に進化して来ました。
    ネットワークも、知っている者同士から知らない者同士へと範囲を拡大しております。ネット上でのレイティングも活発ですし、ここでの情報を企業の宣伝や著名人の評価より信用する傾向が高まっています。
  • ・ITの活用は、海外の小売業に比べ、遅れていると思われます。より一層注力していく必要があると思います。
長期的には、少子・超高齢社会化と人口減少
  • ・中長期的に見た大きな影響要因としては、やはり、少子高齢化とそれに伴う人口減少社会の出現が挙げられます。総務省の統計である住民基本台帳に基づく人口は、2009年から減少過程に入っています。日本は人口減少過程に移行したのです。そして、2060年には平均寿命は男性が84.19歳、女性が90.93歳まで伸びると予想され、世界中のどの国も経験したことのない超高齢社会を迎えることがわかっています。
  • ・その上、単身世帯、高齢女性の一人暮らしが飛躍的に増えます。そして、総人口が減少するのに伴い都市部への集中がさらに進むのです。これまでのドメインを変えざるを得なくなります。
  • ・企業は、そうした人々と社会のためにどのような商品やサービスを作り出し、どのように届けていくかが課題となるでしょう。視点を変えたり、ドリルダウンしてみたり、複合的に考えると戦略も生まれます。
  • ・日本創成会議・人口減少問題分科会の発表では、2040年には推計対象の全国 約1800市町村のうち523市町村で人口が1万人未満となって消滅するとされています。これは何も対策を行わない場合の推計ですが、充分に留意すべき内容だと思います。人口減少への対応としては、顧客戦略にとどまらず、企業ひいては業界全体の問題として戦略を真剣に検討しておく必要があるでしょう。

その他、まだまだ様々な要因が挙げられると思いますが、包括的に大きな変動要因を考えると、まず、これらが挙げられると思います。

大塚 明

コーネル大学リテール・マーケティング・プログラム・オブ・ジャパン プログラムコーディネーター
※前)日本スーパーマーケット協会専務理事
 元)株式会社ヤオコー常務取締役

プロフィール

1971年
(株)イトーヨーカ堂 入社
1981年
(株)ヤオコー入社 販売部長、人事部長、商品部長、ロジスティクス推進室長
フレッシュヤオコー(宅配事業会社)社長等歴任
1997年
(株)ヤオコー 常務取締役
2008年
(株)ヤオコー 顧問
2009年
日本スーパーマーケット協会 専務理事
2013年
同協会 専務理事退任

聞き手

高津 春樹

(公財)ハイライフ研究所 顧問
高千穂大学アジア研究センター 客員研究員

プロフィール

1975年
(株)読売広告社 入社
※プロモーション開発局長、マーケティング開発局長、ソリューション開発局長等歴任
2006年
(財)ハイライフ研究所 専務理事
※2010年より公益財団法人に移行
2013年
(公財)ハイライフ研究所 常勤顧問
2014年
(公財)ハイライフ研究所 顧問