小売業は変化適応業といわれております。しかし、日本の小売業が近代化してからの60年、消費者の消費水準、家族構成、ライフスタイル、コミュニケーションの技術と環境、住む場所も変わっているというのに、スーパーマーケットの根本戦略は本質的に変わっていないのではないかと思うのです。環境変化に対応して、まさに、大きく変化を遂げなければならない時だと思います。

積み残されてきた問題と小売業内でのスーパーマーケットのポジションの低下
  • ・食慣習は、大きくとらえれば保守的なものでしょう。ただ、その中身は微妙に変化し続けており、それに対応して商品の売り方は刻々と変えていかなければならないのです。しかし、業界には、未だにスーパーマーケットの草創期から元気に携わっている方々が沢山おり、事にあたるときに、「原則を打ち破る」戦略が取りにくいこともあると思われます。
  • ・若い消費者を見ると、柔軟に新商品の情報を求め、買い方を変えています。スーパーマーケットに対しても単純に安く食材を手に入れるだけでなく、食材からレシピを連想させてくれたり、アドバイスがもらえたりすることを望んでいるようです。また、消費者同士が集い、情報を交換し、憩いの場にしたいとも考えています。
  • ・効率を追求した結果でしょうか、スーパーマーケット業界は、この間に出てきた問題点を解決せずに積み残してきました。
  • ・そして、食料品は使用頻度や購買頻度が高いものですから、客数増を図る手段として、ドラッグストアをはじめ様々な業態で扱うようになりました。また、各地にある産地直売所やコンビニエンス業態の影響は大きなものとなっています。

スーパーマーケットは、これまで積み残してきた問題をクリアし変わらなければならない状況にあり、まず、この達成が最も大きな解決すべき優先課題であるとのご指摘だと思います。では、解決すべき課題=積み残してきた問題とそれが引き起こした事態に関し、もう少し詳しくお話しいただけますか。

業態を守っていれば済む時代の終焉
  • ・スーパーマーケットは、小売業の中核的ポジションを担っており、所得の高い人から低い人まで、直ぐに消費するものから保存するものまで幅広く扱う業態として市場を拡大してきました。
  • ・1990年代、国内市場の成熟化が進み、総合スーパーの業績悪化が相次いで表面化すると各地のスーパーマーケットが力をつけてきました。経済産業省の商業統計業態別統計編によれば、スーパーマーケットは1999年には全国で18,707店舗ありました。日本スーパーマーケット協会など業界三団体によると平成23年9月現在ですが547社、14,730店舗あるとされています。中小企業も多数あり、突出した企業も少なく、厳しい競争にさらされることなく長年に渡って同質競争をしていたといえます。結果、業態を守ることで生き残ってきたともいえます。社会や生活者の変化が激しくなったいま、よほどイノベーションをかけていかないと生き残れない時代に突入してきたといえるのです。
時代、顧客の変化への対応が遅れ、シェアが低下
  • ・日本の小売業の近代化が始まった頃、消費者の多くは、安さを重視して、生活にはあまりこだわらない価値観で暮らしていました。この時期に誕生した総合スーパーは、“安くて便利”を追求しました。ところが、時代を経て生活が成熟すると、“こだわり”を持つようになります。こだわるとは、他とは違うということの追及とも言えます。
  • ・皆が同じものを購入するという志向から、自分の生活を追及し始めたのです。しかも、モノだけでは満足しなくなりました。資源やエネルギーの無駄にも敏感になり、社会性を追求する姿勢も高まってきました。
  • ・ところが、総合スーパーの後に力をつけ拡大してきたスーパーマーケットは核家族世帯(両親と子供)中心に、「性」「年齢」「地域」でのグルーピング程度のマーケティング・アプローチしかしてこなかったのです。しかも、当時の社会通念を基準とした消費、すなわち、欧米至上主義、価格志向、所有することを前提としたものでした。その上、オーバーストア状況にありますから、戦いは同業態との価格中心のものになったのです。顧客ニーズに対応して出現した様々な業態の動きを見ても“あれはコンビニエンスストアがやっていることだから・・”とか、“あれは総合スーパーの広域からの集客施策で、スーパーマーケットの対応範囲ではない”という感じでした。“生鮮品を、鮮度良く、適正な価格で提供すれば・・”という固定された考えが支配的で、変化するニーズを気にすることが少なかったのです。商品も販売方法もあまり変化していなかったと考えるべきです。
  • ・コンビニエンスストアの強さは、「時間価値」変化への対応力にあります。消費者の時間価値が高まっていますので、遠くの大型店へ行くのは厳しいですし、少しでも早く食べられる食品を求めるようになります。スーパーマーケットは、厳しい見方をすれば、時流から外れた消費者だけを追うという見当外れをしていたのかも知れません。
  • ・横並びの消費から脱却し、消費者が“こだわり”を持つようになった現在、戦いのターゲットは、個客となりました。個客の動きを把握し、プロモーションの最適化を目指し、収益の最大化を実現すること、これが、現在の戦いの中身です。まさに、個々のニーズに向き合い、如何に需要に結びつけるかという需要創造の戦いです。これまでの業態論を打ち破る戦いとなるかも知れません。

大塚 明

コーネル大学リテール・マーケティング・プログラム・オブ・ジャパン プログラムコーディネーター
※前)日本スーパーマーケット協会専務理事
 元)株式会社ヤオコー常務取締役

プロフィール

1971年
(株)イトーヨーカ堂 入社
1981年
(株)ヤオコー入社 販売部長、人事部長、商品部長、ロジスティクス推進室長
フレッシュヤオコー(宅配事業会社)社長等歴任
1997年
(株)ヤオコー 常務取締役
2008年
(株)ヤオコー 顧問
2009年
日本スーパーマーケット協会 専務理事
2013年
同協会 専務理事退任

聞き手

高津 春樹

(公財)ハイライフ研究所 顧問
高千穂大学アジア研究センター 客員研究員

プロフィール

1975年
(株)読売広告社 入社
※プロモーション開発局長、マーケティング開発局長、ソリューション開発局長等歴任
2006年
(財)ハイライフ研究所 専務理事
※2010年より公益財団法人に移行
2013年
(公財)ハイライフ研究所 常勤顧問
2014年
(公財)ハイライフ研究所 顧問