Column コラム
2023.08.17
[インタビュー]「データ分析スキルの定着で、商談力を高めよう」~ ID-POSデータ活用検定開始にあたって ~
- インタビュー
- 公益財団法人流通経済研究所 上席研究員 祝 辰也様
- 聞き手
- (株)ショッパーインサイト データマーケティンググループ
コンサルタント データ活用コーディネーター 石橋 幹二朗
1.はじめに
(公財)流通経済研究所(以下「流研」)が2023年8月28日~9月29日まで「ID-POSデータ活用検定2023」(以下「ID-POS検定」)を実施します。すでにPOSデータ活用検定(以下「POS検定」)が2021年秋にスタートし、200名弱の合格者が知識を活かし実務に携わっていらっしゃるそうです。現状、残念ながらID-POSデータの活用が出来ている企業はPOSデータと比較してまだ少ないと言われています。データ活用を支援する当社としてもこのID-POS検定を応援してまいります。
そこで、今回ID-POS検を開始する背景や目的、実務者への期待。そしてどのような方に受検頂きたいかを創設者である流研 上席研究員 祝様にお話をお伺いました。
2.インタビュー
①購買データ分析検定の意義
石橋
いよいよ、ID-POS検定が始まります。流研では小売業・メーカー・卸が参画した共同研究で得た購買データ分析の知見を、各企業の人材育成を目的として公開講座で広めてきたと思っているのですが、2021年からPOS検定をスタートされ、検定という制度を創設した背景と目的をお聞かせください。
祝
流研では2015年から、ID-POSデータの活用を学ぶ複数の公開講座を開催し、900人以上の方が学んでいます。ただ、講座受講経験無しでID-POSデータ活用に携わる方や、残念ながら分析自体を敬遠している方もまだまだ多いと考えています。
消費者にとって望ましい店頭を実現するために
一方、企業の方にお話を伺っていると必ずしもID-POSデータの特性を正しく理解した活用をしているとも限らないようです。また分析人材不足もよく言われます。
こうした現状から、多くのID-POSデータ活用人材を育成し、特にマーチャンダイジングの分野でのID-POSデータ活用を促進し、結果として消費者にとって望ましい店頭を実現していくために、
①検定制度により、ID-POSデータ活用に関する正しい知識やスキルがある方を認定すること
②検定制度が、ID-POSデータ活用に関する正しい知識やスキルの習得の動機づけとなり、また学習の目標、マイルストーンとなること
という位置付けで本検定を創設しました。
流研の実践的経験の蓄積であるテキストを発刊
さらに、学習のサポートとして検定テキストを発刊いたしました。流研では1980年代の終わりにお買物モニターの購買データをストア・スキャン方式で収集しその分析・活用研究を開始しました。その後ID-POSデータの普及に伴い、調査データをID-POSデータに切り替えたわけですが、お買い物モニターの時代を含めると、30年以上にわたり購買データの活用に関する研究、取り組み、コンサルティング、教育に携わってきたことになります。
検定テキストの内容は、こうした長年の実践的な経験の蓄積に基づいた構成・内容となっており、検定試験の問題も全てこのテキストの範囲から出題します。
②ID-POSデータ活用検定受検に向けて
石橋
私も食品メーカー在籍時、得意先のID-POSを色々な人に教えて頂きながら分析してきましたが、しかし、人によって解釈や用語が異なり苦労しました。当時の同じ職場の人はID-POSは難解だとイメージしてしまい、祝さんがおっしゃる「敬遠してしまっている人」になってしまったでしょうね。当時からPOS分析のように体系化されたものはないのかと思っていましたが、今回発刊された検定テキストをさっそく拝見し、難解な用語も整理され「これこれ」と思わず声が出てしまいました。
検定テキストに「基礎・カテゴリー編」と記載がありましたがこちらの意図は?
祝
ID-POSデータ活用の1丁目1番地から検定実施
検定テキストをご評価いただき、ありがとうございます(笑)。
「基礎・カテゴリー編」の意図ですが、まずはID-POSデータの基礎をしっかり理解してもらいたいというのが第一義です。また一口にID-POSデータ活用といっても、活用する人の立場により使い方は異なります。しかし検定制度としてはなるべく多くの方が関わる領域を範囲とすることが望ましいといえます。
マーチャンダイジングの領域であれば、商品部バイヤーだけでなく、取引先のメーカー・卸も関わってくる領域です。また、メーカーの営業担当者が取引先バイヤーから「ID-POSデータを使った提案をして欲しい」と言われても、大変そうだから現時点ではお断りしている、という話も耳にします。しかしこの領域が「会員購買データ」であるID-POSデータ活用の1丁目1番地です。ID-POSデータの活用領域には、トライアル・リピート分析や、購買スイッチ分析など単品のマーケティング寄りの使い方もあります。特にメーカーにとってはこちらも関心事ではあるのですが、小売バイヤーにとっては関心やなじみのある領域ではありません。
ですから「基礎・MD編」でも良かったのですが、トライアル・リピート分析のような「単品分析は含みません」、という意味で「基礎・カテゴリー編」としたわけです。
石橋
ちょっとID-POS検定にたじろぐ方もいらっしゃるかもしれませんが、ずばり合格のためにはどんな学習をすればいいのでしょうか?
祝
テキストの理解が合格への王道
2021年にリリースしたPOS検定では、POSデータ活用に深く携わっている人であれば追加の勉強をしなくても合格できるレベルに設定できたのですが、ID-POS検定ではなかなかそうもいきません。1度は検定テキストで勉強していただきたいところです。テキストをしっかり理解していれば合格できるレベルの問題を出します。落とすのが目的の試験ではありません。
ただ、テキストは読んだけど実際にID-POSデータを触ったことは1度もない、という方は難しいかもしれませんね。
③検定合格で実務反映への期待
石橋
確かにPOS分析は実務で携わっている人が多いので、正しく理解されていれば検定の導入目的は達成できていますね、でもID-POS分析は経験者がまだ少なく、かつ我流で学んだ人が大半なので、テキストを使って基礎を体系的に学ぶことで検定に合格された方が自信を持って実務にあたれるようになるという事ですね。
では勉強の結果、検定合格した後、どのように実務に反映されることを期待されていますか。小売業や卸・メーカー別にお聞きできれば幸いです。
祝
小売業にとってMD実践の強力なツールがID-POSデータ
ID-POSデータは小売が自社の顧客視点のMDを実践していくうえで非常に強力なツールとなります。例えばあるカテゴリーの売上が前年比でマイナスだったとします。POSデータでは購買回数と単価の増減までしか分解できないのですが、ID-POSデータではそのカテゴリーを購入する会員数自体が減ったのか、購買会員数は減らないが購買頻度が減ったのかまで分解することができます。
また、平均単価が下がっているのに購買会員数が減っているのであれば、原因は価格以外と考えられます。さらに購買会員数が減ったのなら、どのような方が買わなくなったのか、以前はどの商品を買っていたのか、といったこともわかります。調査会社のモニターデータと異なり、ID-POSでは会員の属性は年齢までしかわかりませんが、年齢はライフステージの代理指標となる変数で、年代により購入カテゴリーや商品が異なりますから、顧客視点のマーチャンダイジングでは武器になります。さらにプロモーションを企画する際は、バスケット分析や期間併買分析が役に立ちます。
検定合格はメーカー・卸の課題解決力の判断基準に
ただ、データを集計し、課題を明確にし、その原因を深掘りして打ち手を考える、となると手間も時間もかかります。1980年代の終わりにアメリカでカテゴリーマネジメントが生まれた理由の1つは、POSデータや市場データを活かした精度の高いマーチャンダイジングを行うには小売だけではリソースが足りないので、取引先に協力してもらおう、ということでした。データ量が多く複雑なID-POSデータではなおさらです。そのためには小売のバイヤーだけでなく、メーカーや卸の営業担当あるいは担当をサポートする部門の方々にID-POSデータ活用の正しいスキルを身に着けていただく必要があります。
そうした人材の育成がID-POS検定の目的のひとつですが、さらにID-POS検定の合格者なら、小売が安心してID-POSデータを使ったマーチャンダイジングの課題解決のサポートを頼める、という判断基準になればと考えています。
石橋
メーカーや卸の方から、「最近小売からID-POSデータを使った提案ができないか?」と言われることが増えてきた、と耳にしますが、ID-POS検は小売の方も対象としているのでしょうか?
祝
確かに、せっかくメーカーや卸がID-POSデータを使った提案をしても、その提案を小売のバイヤーが理解したり評価したりできなければ何にもなりません。またデータに基づく提案ができるメーカー・卸がいない部門では、バイヤー自身がID-POSデータ分析を行う必要があります。こうした意味で、ID-POS検定はマーチャンダイジングに関わる製・配・販全ての方々にチャレンジしていただきたい検定と言えるのです。
検定受検勉強でID-POS分析の“誤解”を払拭
ところで、メーカーとしては「当社の製品は優良顧客に好まれています」と言いたいのはわかりますが、その言い方はデータの性質から考えると正しくありませんし、そのためにデータ分析に時間を使うのも無意味です。なぜなのかは、長くなるので検定テキストで確認してください。
これに限らず、ID-POSデータ活用では誤解されやすいポイントや誤った定説もあります。検定テキストでは、ID-POSデータに長年関わってきた者として、こうした誤解をなくしたいという筆者の意図も含まれていることを付け加えておきます。
石橋
昨今「学び直し」が叫ばれビジネスパーソンが取り組むテーマとなっています。データに携わる実務者は業務と並行しながら必要なスキルを身につける「リスキリング」が現実的だと思いますが、スキルを見える化できる検定資格はその象徴ともいえます、最後に実務者へのエールでこのインタビューを閉じたいと思います。
祝
そうですね。リスキリングとは、何も今話題の生成AIを身につけることだけではありません。今、目の前にあるのに使えていないデータを、深くまた効率的に使えるようになる、ということもリスキリングです。ID-POS検定をそのきっかけとして活用してもらえれば幸いです。
3.おわりに ~検定合格で取引先から信頼を得よう
祝様のお話にもありましたがPOSデータについては、カテゴリーマネジメントがブームの時期にPOS分析の標準的な手順を基礎から学んだ人が多く、その方々が指導者となりPOS分析の裾野が広がりました。ID-POSについてはデータ量が非常に大きく、ITの進化によって徐々に分析環境が整備されてきてはいますが、分析に使われる指標名や手順の標準化が後追いとなり、取っ付きにくいデータと敬遠され実戦的な分析経験者 指導者の数が限定的です。ID-POSが有効なデータとは理解はしているものの、活用が進んでいないのが現状だと思います。
ID-POS検定のテキストをベースにID-P0Sの基礎を学ぶことで、取っ付きにくさが薄まり、ID-POSを活用する人材が増え、消費者主語のマーチャンダイジングの裾野が広がること、分析力を証明し、取引先様から信頼を得て商談に臨まれることを期待しております。
4.「ID-POSデータ活用検定」のご案内
ID-POSデータ活用検定2023の概要、テキスト、申込みは以下webサイトをご参照ください。
ID-POSデータ活用検定2023(基礎・カテゴリー分析編)紹介ページはこちら
※外部、(公財)流通経済研究所のwebサイトへのリンクとなります。
ショッパーインサイトはID-POS検定の運営を支援しております。
祝 辰也(いわい たつや)
公益財団法人流通経済研究所 上席研究員 流通ビジネススクール統括
外資系金融サービス会社を経て1992年 財団法人流通経済研究所入所
2003年から2015年まで小売向けデータ活用コンサルティング会社、市場調査会社に勤務
2015年4月より流通経済研究所に復帰し現職
一貫してPOS・ID-POSデータ活用、インストアマーチャンダイジング、カテゴリーマネジメントなどの領域での調査・研究、コンサルティング、研究会運営、教育に従事
2022年~ 明治学院大学非常勤講師(データに基づくマーチャンダイジング)
主な著書・論文
- ・「消費者の購買先選択におけるECの位置付け」『流通情報』2022年1月
- ・「消費財営業部門における人材育成の課題と弊所の教育事業の方向性」『流通情報』2020年5月
ほか。